とっても身近な立体音響の世界
昨今、VR技術の流行にともない
音に臨場感を持たせる技術も、様々な方向に進化していっていますね。
そこで今回は、立体音響の話。
立体音響というと、
何か特別な装置がいるような感じがしませんか?
実は、普段何気なく使っている、テレビや、パソコン
その左右2つのスピーカーを使って再生する「ステレオ」方式こそ、
もっとも身近な立体音響の手段なのです。
今回は、「ステレオ」について振り返り、
その素晴らしさを再確認していこうと思います。
スピーカーと定位
今は、スマホで手軽に音楽が聴ける時代ですが、
まだ皆さんの家にコンポやラジカセといったものは、ありますでしょうか?
「ステレオ」とは簡単な言葉でいうと、
左右のスピーカーから、それぞれ異なった音を再生することで作り出す
立体音響のことです。
例えば、音楽をそこそこの音量で鳴らし、コンポの真正面で聴いていると
実際の音の発信源は左右それぞれのスピーカーであるはずなのに、
「歌」はスピーカーの間にある空間で鳴っているように
聴こえますね。他の楽器はどうでしょうか。
このスピーカー間の空間こそ、立体音響のメインのキャンバスとなるところです。
それぞれの楽器に焦点を当てて、よく意識して聴いてみると
それがこの空間の左右のどこに位置しているか、
さらに、自分から近い位置か遠い位置かといった前後の奥行きを認識できるはずです。
音の、この空間内での位置の事を「定位」と言います。
2つのスピーカーだけで、左右のみならず
前後の定位、つまり奥行きの表現ができることこそ、
ステレオが立体音響たる所以です。
では、なぜこの様なことができるのか。
それは、人間が耳で聞いた音の距離や方向を認識するときの
基本的な仕組みが関係してきます。
定位の仕組み
人間の右耳・左耳の間には距離があります。そのことで、
音が、発信源から耳に到達するまでの時間に、左右で僅かな誤差が生じます。
その誤差によって、人間は音の方向や距離を知ることができるのです。
また、実生活で音が聞く場合。わたしたちは
音の発信源から、直接耳に届く「直接音」と
その音が部屋の壁や家具などに反射したものが聞こえる「反射音」の
両方を聞いていることになります。
至近距離で発生する音は、「直接音」が耳に入る割合が多いため、
「反射音」の影響をあまり受けませんが、
遠距離の音は、耳に届く「直接音」が減衰するため、より「反射音」の影響を大きく受けるということになります。
ステレオ音源の制作では、このような要素を踏まえて
スピーカーから出力する各音に対して
音量、左右のバランス、反響などの加工を施すことで
前後左右、任意の場所に音を定位させていきます。
スピーカーとヘッドホン
注意が必要なのは、ステレオとは「スピーカーで再生する」ことであり
「ヘッドホン」や「イヤホン」では無いということです。
ヘッドホンやイヤホンが、左が左耳だけ、右が右耳だけに
直接音を伝えるのに対して、
スピーカーの場合、左側の音が左耳だけでなく、僅かな時差を伴ったうえで右耳にも届き、
同じく右側の音は、左耳にも届いています。
このようにヘッドホンとスピーカーでは、耳に伝わる情報が異なるため
ステレオ音源として制作された作品は、ヘッドホンでは正確に再現することが出来ません。
聴こえ方の違いとしては、ステレオ音源を再生した場合、
スピーカーは、前方に広がる感じの立体的な音像であるのに対して、
ヘッドホンは頭の中やや後方に左右一列に配置される感じになります。
(ステレオ方式で制作された音源を、左右2個のイヤホンで再生することを
バイフォニックと呼ぶそうです。)
ヘッドホンで立体音響を得るためには、
それ専用に作られた音源(バイノーラル、等)を用意する必要があるのです。
さぁステレオ音源をスピーカーで楽しもう
世の中の音楽CDは、特別な表記がなければ
スタジオでスピーカーを使って作られたステレオ音源です。
エンジニアが繊細に配置した、各楽器の定位や距離感を意識しながら
スピーカーで音楽を楽しみましょう。